名古屋地方裁判所 昭和38年(ワ)50号 判決 1963年6月13日
事実
原告は主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、請求の原因として、被告村田建設株式会社(旧商号名古屋ブルドーザー建設株式会社)は昭和三十六年四月十五日原告に宛て
(金額) (満期)
(1)金二十万円 昭和36・8・10
(2)金三十万円 〃36・10・25
(3)金三十五万円 〃36・11・25
(4)金三十五万円 〃36・12・25
(注 右(1)から(4)までの(支払地振出地)は名古屋市、(支払場所)は株式会社東海銀行笠寺支店)
なる約束手形各一通を振出交付し、原告は右各満期にこれらを右支払場所に支払のため呈示した。被告岡田善助は昭和三十六年四月十五日右被告会社の手形債務を重畳的に引受けた。
よつてここに原告は右各約束手形の所持人としてその振出人たる被告会社及び右重畳的引受人たる被告岡田善助に対し右各約束手形金計金百二十万円及び内右(1)の約束手形金金二十万円に対する右満期の後たる昭和三十六年八月十六日以降、右(2)の約束手形金金三十万円に対する右満期たる昭和三十六年十月二十五日以降右(3)の約束手形金金三十五万円に対する右満期たる昭和三十六年十一月二十五日以降、右(4)の約束手形金金三十五万円に対する右満期たる昭和三十六年十二月二十五日以降右各完済に至るまで手形法所定年六分の割合による連帯支払を求めるため本訴請求に及ぶ。と述べ、被告の抗弁事実を争い、被告会社は昭和三十六年四月八日名古屋ブルドーザー工事株式会社の営業権その他の財産全部を無償譲渡を受け何等対価を支払つていない。よつてこれを定款に記載しなくても資本充実、資本維持の法則に反していない。その後の株主総会において株主全員出席し財産目録、貸借対照表等についても全員異議なく特別決議をもつて全員承認議了しておる。仮に然らずとするも被告会社は名古屋ブルドーザー工事株式会社の全財産を無償承継し、名古屋ブルドーザー工事株式会社に対する原告等債権者の権利を放棄せしめ被告会社が新に本件各約束手形を振出して債務負担の意思表示を為している事実もあり、被告会社自ら信義誠実の義務違背あり禁反言の法則に違反して今更その支払を拒む理由は成立しない。被告会社の振出した有効なる本件各約束手形につき被告岡田善助が重畳的にその債務を引受けるのは何等無効ではない。仮に然らずとするも被告会社及び岡田善助は原告の訴外名古屋ブルドーザー工事株式会社に対する手形債権を該手形を回収して消滅せしめ自己が本件各約束手形を振出しながらこれまた取引銀行との取引を解約して支払不能ならしめ因つてもつて原告に対し本件各約束手形金相当の損害を蒙らしめたから被告等はこれが賠償の義務がある。と述べた。
被告等は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張の請求の原因たる事実中冒頭から右各約束手形を支払のため呈示した点までを認め、爾余の点を争い、抗弁として訴外名古屋ブルドーザー工事株式会社が訴外兼松重雄外十数名に対し計金一億余円の負債を生じ行詰つたのでその代表取締役訴外新井十郎、同役員奥村敏雄、右兼松重雄等は昭和三十六年四月六日資本金金二百万円の被告会社を設立し被告岡田善助に乞うてこれが代表名義を出して貰い右訴外会社の右巨額の負債一切及び若干の財産営業を被告会社において引継ぎ営業の譲渡を受け、右訴外会社の振出していた手形についてはこれと被告会社振出の手形と交換し本件四通の約束手形も同様に被告会社においてこれを振出し右兼松重雄に手交せられたものであるが、被告会社の定款には右引継財産につき商法第百六十八条第一項第六号所定の記載を欠くのみならず右営業譲渡につき被告会社は商法第二百四十五条、第二百四十六条、第三百四十三条所定の株主総会の特別決議をなしていないので被告会社の右各行為は右各強行法規に抵触して無効であり、右の事情は原告もこれを知悉していたものである。よつて原告の右訴外会社に対する約束手形債権は依然現存しているわけである。被告岡田善助は右の如く形式的に被告会社の代表者となつたのに過ぎなく、何等個人的迷惑は蒙らしめられない約定であり、本件各約束手形につき原告主張の如き引受をするわけがない。仮にこれが引受保証があつたとしても無効の債務の引受保証はその効力がない。と述べた。
理由
原告主張の請求の原因たる事実中冒頭から本件各約束手形が支払のため呈示せられた点までは当事者間に争なく、証人川合通雄の証言、原告本人の訊問の結果によると爾余の点を認めることができる。被告岡田善助本人訊問の結果及び乙第三号証の記載中右認定に反する部分は右川合証人、原告本人の各供述に対比して措信し難い。
よつて被告等主張の抗弁につき審究せむに(証拠)によると訴外新井十郎、奥村敏男の主宰せる訴外名古屋ブルドーザー工事株式会社が昭和三十六年三月末頃訴外兼松重雄等多数債権者に対し総額金一億余円の負債を生じた末銀行取引を停止せられて経営不能となり破産状態に陥つたため右新井十郎、奥村敏男、兼松重雄等関係者はこれが対策として右訴外会社と株主その他人的構成を殆んど同一とせる被告名古屋ブルドーザー建設株式会社(後に村田建設株式会社と商号変更)なる資本金金二百万円の新会社を設立し、右奥村敏男の妹の夫で元名古屋市熱田区長等を歴任し、病院理事の職にある被告岡田善助に出馬を乞うて被告会社の代表取締役たらしめよつて銀行取引の再開を図り右訴外会社はそのままにしておいてその営業を被告会社に無償譲渡せしめ、右訴外会社の巨額の手形債務については被告会社において右手形を回収し(これにより被告会社は右訴外会社に対する手形債権を取得したことになる。)これと交換に被告会社振出の手形を振出交付してその支払期日を延期せしめもつて右訴外会社の潰滅を防止し、破綻に瀕した右訴外会社の事業を更生せしめ被告会社によるその事業の継続遂行によつてあぐる利潤により逐次右債務を償却せんとし本件四通の約束手形も右営業譲受に伴う引継の一環として被告会社より原告に宛て振出交付せられたものであること、被告会社の定款には商法第百六十八条第一項第六号所定事項の記載を缺如することを認めることができるけれども被告会社において株主総会の招集開催並に商法第二百四十五条、第二百四十六条、第三百四十三条所定の特別決議のなされなかつた旨の被告等の主張に副う右被告本人の供述部分は前記各説示事実に対比して措信し難い。而して被告会社は右訴外会社の財産の譲受けにつき商法第百六十八条第一項第六号に依拠することなく右認定の営業譲受の方法に出でたるものとすることは右乙第一号証の記載に徴して明らかなるをもつて被告等所説の如く同条同項同号の適用をみるべきものでないことが明らかであり、又前記各説示事実に徴すると被告会社においては右株主総会を招集開催して右営業譲受の特別決議をなしたものと推知し得べく、仮に右総会の召集の手続が合式になされたるや否や、又はその決議の方法が商法第二百四十五条、第二百四十六条(尤も右譲受にかかる営業権の魅力ある価値を勘案すれば被告等所説の如く商法第二百四十六条に該るや否やについては若干の疑問がある。)第三百四十三条所定の特別決議によりたるや否やの点につき瑕疵を存するものとせむも右は商法第二百四十七条所定の決議取消の訴の事由たるに止り、それのみの事由をもつて被告会社の右営業の譲受けの決議を無効とすることはできないので該抗弁は何れも理由のないものとして排斥を免れない。
果して然らば爾余の争点について判断をなすまでもなく、被告会社は右各約束手形の振出人、被告岡田善助は該手形債務の重畳的引受人として右各約束手形の所持人たる原告に対し連帯して右各約束手形金計金百二十万円及び内右(1)の約束手形金金二十万円に対する右満期の後たる昭和三十六年八月十六日以降、右(2)の約束手形金金三十万円に対する右満期たる昭和三十六年十月二十五日以降、右(3)の約束手形金金三十五万円に対する右満期たる昭和三十六年十一月二十五日以降、右(4)の約束手形金金三十五万円に対する右満期たる昭和三十六年十二月二十五日以降右各完済に至るまで手形法所定年六分の割合による利息を支払うべき義務のあることが明らかであるので原告の本訴請求を正当として認容し……。